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東京高等裁判所 昭和24年(わ)484号 判決

上告人 被告人 小宮山喜清

弁護人 坂本英雄

検察官 小泉輝三朗関与

主文

本件上告は之を棄却する。

理由

弁護人坂本英雄上告論旨第一点について。

原審第四回公判期日と同第五回公判期日との間に十五日以上経過しているに拘らず第五回公判廷で審理更新の手続をとらなかつたことは記録に徴し明白である。しかしそれは原審において刑事訴訟規則施行規則第三条第三号によつて右公判手続を更新する必要を認めなかつたによるものと解するを相当とする。刑事訴訟規則施行規則第一条によると刑事訴訟規則はその施行前に公訴の提起のあつた事件(以下旧法事件と称する)については適用されないことは所論の通りであるが、そのために同施行規則第三条第三号が旧法事件たる本件に適用できないということはない。そもそも旧刑事訴訟法が改正せられるに当つては、刑事訴訟手続に関し法律を以て規定することを要するものについて新刑事訴訟法が生れ、そのこれを必要としないものについて刑事訴訟規則が制定せられたのであるが十五日以上開廷しなかつた場合の公判手続の更新については、旧刑事訴訟法には常にこれを必要とする旨の規定(第三百五十三条)があつたけれども、新刑事訴訟法は法律によつて其の規定を設ける必要を認めないとしその結果刑事訴訟規則第二百十三条第二項で開廷後長時間にわたり開廷しなかつた場合において、必要があると認めるときは公判手続を更新することができる旨を規定したものである。而して右訴訟規則は旧法事件については適用されないことは前述の通りであるから、他に何等の経過規定がないときには、旧法事件については新法施行後も右手続の更新を要することとなる。しかし斯くては刑事訴訟法改正の前示趣旨に反するから、右施行規則第三条第三号で前示の様な経過規定を設けたものと解するを相当とする。即ち右施行規則の条項は刑事訴訟規則の施行に関連するものであるから、その施行規則として有効なことは論を俟たない。刑事訴訟規則が旧法事件たる本件に適用されないからその施行規則も亦本件に適用されないとの所論は右の実質論理を無視した形式論であつて之を採用するに足らない。同じく形式論理で謂うならば右施行規則も亦最高裁判所の規則であるから刑事訴訟法施行法第十三条により旧法事件について規定することができる筈である。尚本件の様な場合における公判手続の更新については新法はその規定を最高裁判所の規則に任していることは前述の通りであるから前示刑事訴訟規則第二百十三条第二項は違憲ではない。従つて右条項の趣旨と新刑事訴訟法の精神によつて旧法事件の公判審理の更新について経過的事項を規定した前示施行規則の条項も違憲でない。論旨は理由がない。

同論旨第二点について。

原判決擬律の部に全融緊急措置令第十条とあるのは原判示事実に対照せしめるときは第十一条を誤記したものであることは明白である。又原判示金融緊急措置令違反の罪はその法定刑よりみて業務上横領罪に包含せらるべきであるとの所論は同令第十条を前提とするものであると思われるが同条は本件には適用がないから所論は採用し難い。而して右二罪は罪質を異にする数罪であるからその間に想像的競合の関係を認めた原判決は正当である。論旨は理由がない。

仍つて刑事訴訟法第四百四十六条によつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 佐伯顕二 判事 久礼田益喜 判事 仁科恒彦)

上告趣意書

第一点原判決は訴訟手続に違法のある審理の上になされたるもので破棄を免れない。

即ち原審公判調書の記載によると原審はその第四回の公判を昭和二十四年六月十三日に開廷し第五回公判は同年七月五日に開廷している。その間十五日以上開廷しないのに第五回公判では審理の更新手続をとることなくして訴訟手続をすすめた結果原判決に及んでいる。これ旧刑事訴訟法のみとめた口頭主義直接主義を無視したもので違法である。

尤も昭和二十三年十二月二十三日最高裁規則第三四号の刑事訴訟規則施行規則第三条第三号によれば、かかるばあいでも必要と認めないときは公判手続を更新しないでも足りる規定があるが同規則は刑事訴訟規則の施行規則であり右刑事訴訟規則は右規則施行前に公訴の提起があつた事件についてはこれを適用しないものであることは刑事訴訟規則施行規則第一条の定むるところであるから、従つて同規則の施行規則である刑事訴訟規則施行規則も本件には適法がない筋合である。だから十五日以上開廷しなかつた原審公判手続に於て審理の更新手続をしないで判決した原審判決は違法であることを免れない。

のみならず最高裁判所規則で訴訟法と異つた規定を定めることができるかどうか問題である。学者の一部これを肯定している様であるが憲法の認めた最高裁判所の規則制定権は既存法律を変更しない範囲のものでなければならない。従つて旧刑訴第三五三条を変更した前記刑事訴訟規則施行規則は憲法第七十三条に違反するものと解するのでこの点の判断を求める。

第二点原判決はその擬律に違法があつて破棄を免れない。すなはち原判決はその法律の適用に於て被告人の所為に対し金融緊急措置令第六条、第十条に違反するものとしているが同法第十条によつては刑罰を浮き出すわけにはゆかない。原判決主文の刑は如何なる条項から生じたものか原判決引用の擬律からはこれを推知することができない。この点に於ても原判決は破棄せらるべきである。

仮に右十条というのは第十一条の誤なりとしても原判決が被告人の所為は同法条に該当する旁々刑法の業務上横領なりとして所謂想像上数罪の擬律をしたのは違法である。すなはちその法定刑を見ると同法第十一条は三年以下の懲役又は一万円以下の罰金であるのに刑法の業務上横領罪の刑は十年以下であるから刑罰の点から考えて業務上横領罪には当然金融緊急措置令違反の行為は包含されているのである。だから本件の如きは刑法業務上横領の一罪をもつて臨むべきで一所為数法の法律関係に在るものと見るのは誤である。

この点に於ても原判決は破棄せらるべきである。

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